独立行政法人土木研究所 坂本忠彦
1、背景
1992年ブラジルリオデジャネイロで開催された地球環境サミットで、環境と開発が包括的に議論され、持続可能な開発において水資源の偏在等水に係わる問題が世界的課題であることが共有されることとなった。
2003年の第3回世界水フォーラムでは、洪水等の水災害が早急にかつ世界的に取り組むべき重要課題と位置付けされるとともに、ユネスコIHP(国際水文学計画、International Hydrological Programme)のもと、水災害とリスクマネジメントに関する国際センターの設立が決議された。
独立行政法人土木研究所は、これまでの治水・水資源等水管理技術の研究実績を踏まえ、このような国際的な拠点としての役割を積極的に担い、これまで蓄積してきた多面的な水管理に関する技術的知見、及び海外における水問題の解決に必要なこれからの研究開発とその成果の活用を図るために、2005年秋ユネスコ総会での承認を得て、水災害・リスクマネジメント国際センターを土木研究所内に設立しようとして現在準備を進めている。なお、詳細については、土木研究所のホームページ(http://www.pwri.go.jp)を参照されたい。
2.水災害とリスクマネジメント国際センター(International Center for Water Hazard and Risk Management under the auspices of UNESCO)の活動方針
本センターは、水災害・リスクマネジメントに関する事項、問題をテーマとし、そのテーマに沿った研究・研修・情報ネットワーク活動を推進することとしている。
研修生の研究への参画、研究成果の研修での活用あるいは研修課程の提供、また、情報ネットワークで得られたデータ等の研究や研修での活用、研究成果の情報ネットワークを通じた発信、さらに、研修を通じて得られた人脈は将来的な情報ネットワークの中核として継続的に維持発展させるなどによって、これら3つの活動は、密接に関連させ、三位一体として効率的・複合的な成果を上げるができると考えている。このことによって、これまでの土木研究所や関係する研究機関等が行ってきた活動や蓄積されてきた技術・知見をも併せて、ユネスコの国際的なネットワークを通じて普及・活用されることを期待している。その結果として、特に水災害に悩まされている開発途上国に対する我が国の国際貢献を果たすとともに、他の関連センターや様々な国際機関における研究成果や情報を活用し、我が国での研究活動にも資しようとするものである。このため、ユネスコIHP関連センターを始めとして、世界気象機構(WMO:World Meteorology Organization)、国際防災戦略(ISDR:International Strategy for Disaster Reduction)、国連大学(UNU:United Nations University)等の国連機関、国内外の大学・研究機関、さらに世銀やアジア開発銀行等国際金融機関等との連携・協働を図るグローバルなリンクを想定している。
3.これまでの設立準備とこれからの活動計画
(1) これまでの設立準備状況
これまでの対外的な準備状況を示すと以下のようである。
1) ユネスコセンター戦略会議(2003年7月14日〜18日:オランダ・デルフト)
UNESCO-IHE(国際水教育研究所)でのユネスコIHPセンター戦略会議において、土木研究所でのユネスコセンター設立の基本的な考えを説明し、当センターはグローバルセンターとして期待されていることを確認した。
2) 第32回ユネスコ総会(2003年9月29日〜10月17日:フランス・パリ)
第32回ユネスコ総会における自然科学分野を取り扱う第3委員会(Commission III)で、日本政府は、ユネスコ後援の水センターを設置する可能性を検討中で、一年内目途に設立提案したい旨を発言。ユネスコ本部担当局長より歓迎の意が表された。
3) ユネスコIHP−東南アジア・太平洋地域運営委員会(2003年10月27日〜31日:フィジー)
ユネスコIHP東南アジア・太平洋地域運営委員会において、当センターの設立が議題。地域運営委員会の総意として強力な設立支援する旨の決議がなされた。
また、グローバルな活動を行う本センターへの期待から、2003年11月18〜19日の間開かれたユネスコIHP中南米カリブ地域運営委員会においても、設立支援する旨同様な決議がなされた。
4)水災害・リスクマネジメントに関する国際ワークショップ(2004年1月20日〜22日:土木研究所)と国際シンポジューム(2004年1月23日:都市センターホール)
水災害・リスクマネジメントの分野における土木研究所の知見・経験を国際的に著名な研究者等と共有するとともに、世界的に主要な技術や傾向を把握すること、さらに当センターが取り組む課題と将来的な方向性について議論するために国際ワークショップを、また、設立されるユネスコセンターを通じた国際貢献の重要性についての共通認識を醸成するために国際シンポジュームを開催した。
5)日本ユネスコ自然科学小委員会への説明(2004年2月8日:文部科学省)
2003年11月20日のユネスコ自然科学小委員会・IHP分科会に、また、2004年2月8日の同自然科学小委員会に、センターの設立に関する報告を行った。
6)ユネスコIHPビューロー(2004年3月31日〜4月2日:フランス、パリ)
ユネスコIHPビューローで、水災害・リスクマネジメント国際センターの設立提案が議題。設立に関するこれまでの検討結果を詳細に説明。全会一致でIHP-IGCに諮ることが承認された。
(2)これからの活動計画
4月1日に発足したユネスコセンター設立準備推進本部を中心に、国内関係省庁・ユネスコとの協議を精力的に行い、2005年秋のユネスコ総会での承認を経て、センターを発足させる予定である。今後の設立に向けた主な手続きは以下の通りである。
2004年9月20日〜24日 IHP政府間理事会
2004年秋頃 ユネスコ執行委員会
2005年秋頃 第33回ユネスコ総会
さらに、国内・国際会議等の機会を活かして多くの関連者との議論を通して、本センターの方向性を確定し、活動内容を充実させ、その体制を固めて行くこととしている。
(3)研究職員の採用計画
本センターは、定員内研究職員10名、非常勤研究職員(専門研究員)10名、交流研究員(民間等からの派遣職員)、外国からの研修生等から構成する予定である。定員内研究職員、非常勤研究職員については大部分を公募による任期付として採用する予定であり、その半数は国際センターの性格上外国人とすることとしている。今後、設立活動の進行状況に応じて順次公募していく予定である。