低鉄筋コンクリートのせん断耐力

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極めて低鉄筋なコンクリート(引張鉄筋比0.03%)が曲げ破壊せずに、せん断破壊することはあり得るのでしょうか。?

コメント

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配筋はせん断破壊を先に起こさないためのものです。
設計思想的に
×せん断破壊→曲げ破壊
〇曲げ破壊→せん断破壊

低配筋なら先にせん断破壊が生じるものと思いますよ。

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ご返答頂きまして、ありがとうございます。説明が不足しており、申し訳ございません。
極めて低鉄筋の場合、もはや無筋コンクリートに近いと思うのですが、せん断補強筋がなく、鉄筋がほとんどないコンクリートのはりを載荷したら、曲げひび割れが入った時点で、その亀裂が進展してポキッと曲げ破壊するように思い、ご質問させて頂きました。

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 鉄筋量が余り少ないと曲げ引張ひび割れ発生と同時に引張鉄筋が降伏しReinforced Concreteの抵抗機能が成立しない。当観点から最小鉄筋比(pmin)が規定され、標準示方
書では、(長方)矩形断面で0.2%、T形断面では0.3%と規定されている(文献1)。以下で、許容応力度設計法に依り、pminを理論的に求める。単鉄筋矩形断面の曲げひび割れの発生
moment(Mcrと引張鉄筋の降伏moment(Msy)は、
 Mcr=ft・bd^2/6,Msy=fy・pjbd^2・・(1)
 ここに、ft;concreteの引張強度[N/mm^2]
    b:断面幅[mm]
    d:梁の有効高さ(圧縮縁から引張側鉄筋図心までの距離)[mm]
    fy;(引張側鉄筋の)降伏強度[N/mm^2]
    j:((concreteの)圧縮合力と鉄筋引張合力との間のarm長)/d(一般に=7/8)
となり、断面内で力の釣合式に、h≒d、標準示方書に拠るft=0.5fc'^(2/3)(ここに、fc':concreteの圧縮強度[N/mm^2])を用いると、
 pmin=ft/(6jfy)≒[0.5fc'^(2/3)]/(6・7fy/8)≒0.095fc'^(2/3)/fy・・(2)
となる。
 最小鉄筋比を満たした上で、(対称)2点載荷の梁の曲げ試験で片側集中荷重位置から近い側の支点までの距離を剪断span(a)とし、剪断span比(a/d)が2~5程度以下の背が高
いdeep beemでは剪断破壊、a/d>2~5程度の梁では曲げ破壊を起こす事が多い。
参考文献
1)吉川弘道;鉄筋コンクリートの解析と設計、1996.10.
2)岡村甫・前田詔一:鉄筋コンクリート工学 改訂版、1995.1.

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大変ご丁寧にご説明頂きましてありがとうございました。最小鉄筋量が配置されている鉄筋コンクリートの破壊形態について理解できました。
今対象としているのは、既設の大断面低鉄筋構造物でして、せん断破壊に対する照査をどうすべきかで悩んでおりました。コンクリート標準示方書のせん断耐力式を使おうにも低鉄筋すぎて適用範囲外ですし、そもそもせん断破壊するのかが不明でした。もう少し調べてみます。

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 文面から、耐震等標記の保有耐力を照査して補修又は補強の検討をされていると私は推し、以下ではその前提で記します。
 RCの巻厚は外荷重として特に土圧や覆工の力学的機能が明確でなく現状で確立された物は無く、過去の実績から決められることが多く、国内で発表されている内空断面と
巻厚の目安を表-1に示す(文献1)。
表-1 覆工concreteの設計巻厚
内空断面幅[m] 設計巻厚[mm]
       NATM   矢板工法
10    300~400 400~700
 引張鉄筋比p=0.03%とのことで、原設計は横断方向全断面圧縮状態で、せいぜい自重のみに対して設計されたものと私は推します。
 鋼製支保工(H形鋼)及びRCの設計は、それぞれを梁(beam)要素とするか、一体もしくは重ね構造としてFinite Element Method又はTerzaghiの緩み土圧と水圧を外荷重とし
て梁とばねでmodel化した骨組解析により、断面力(曲げmomentM[N・mm/m]、軸力N及び剪断力S[N/m])を解析し、許容応力度設計法で照査する。
1. 構造のmodel化私案(未公表)
 H形鋼とRCの重ね構造と見做し、それぞれが分担するM,N及びSは、H形鋼の曲げmoment(MH)、軸力(NH)及び剪断力(SH)とRCの曲げmoment(Mrc)、軸力(Nrc)及び剪断力(Src)と釣
合う式を式(1)に示す。
MH+Mrc=M,NH+Nrc=N,SH+Src=S・・(1)
 曲げ剛性(EI)、軸剛性(EA)及び剪断剛性(GA)の比でH形鋼とRCが分担するとして式(2)に示す。
Mrc=Ec(Ic+nIrb)M/[Ec(Ic+nIrb)+EsIH],MH=EsIH・M/[Ec(Ic+nIrb)+EsIH]・・(2)
Nrc=(Ac+nArb)N/[Ac+n(Arb+AH)],NH=nAH・N/[Ac+n(Arb+AH)]
Src=Gc(Ac+nArb)S/[Gc(Ac+nArb)+GsAH],SH=GsAH・S/[Gc(Ac+nArb)+GsAH]
 ここに、Ec:concreteの弾性(Young)係数([kN/mm^2]) Es:鋼材(異形棒鋼、H形鋼)の弾性係数(=210[kN/mm^2])
    n:鉄筋とconcreteとの弾性係数比(=15)応力度の計算ではn=Es/Ec=15を使用する。 Irc,IH,Irb:RC、 H形鋼及び異形棒鋼の断面2次moment[mm^4/m]
    Arc,AH,Arb:RC、 H形鋼及び異形棒鋼の断面積[mm2/m] Gs,Gc:鋼材、concreteの剪断弾性係数Gs=Es/[2(1+νs)],Gc=Ec/[2(1+νc)]
    νs,νc:鋼材、concreteのPoisson比[1]νs=0.3,νc=1/6≒0.17
2. 許容応力度設計
 RCを単鉄筋concreteとした許容応力度設計を以下に記す。
2.1 曲げmoment(M)及び軸力(N)に対する設計
 最大・最小曲げmoment(内空側の曲げを正とする。)の発生位置での曲げと軸力に対して設計する。全断面圧縮状態になる場合と曲げ引張応力が生ずる場合によって異なり、
式(3)により、正曲げ及び負曲げに対して判別する。p=0.03%で断面内で、concrete圧縮力と鉄筋の引張力の釣合が成り立たず鉄筋が降伏するため、既設は全断面圧縮状態の式
しか適用できない。
Ki=Ii/[Ai(h-u)],f=u-(h/2-e),Ai=Bh+nAs,u=[0.5Bh^2+nAs・d]/Ai,Ii=B[u^3+(h-u)^3]/3+nAs(d-u)^2,e=|M/N|・・(3)
ここに、Ki:concrete換算等値断面の軸力に近い側のcore距離[mm],f:換算等値断面の図心から軸力位置までの距離[mm],e:断面の図心から軸力位置までの距離[m]
    Ai:換算等値断面積[mm^2],B:覆工単位幅(=1000mm),h:覆工厚[mm],As:引張側鉄筋断面積[mm^2/m],d:引張側主鉄筋有効高さ[mm]
    Ii:換算等値断面積の図心に関する断面2次moment[mm^4/m],u:軸力側縁端からconcrete換算等値断面図心までの距離[mm]
 concrete外縁の最大、最小圧縮曲げ応力度(σc max、σc min)及び引張鉄筋の引張応力度(σs)は、式(4)で表される。
 σc max=N/Ai+M・u/Ii≦σ'ca,σc min=N/Ai-M・(h-u)/Ii,σs=n[σc max-(d/h)(σc max-σc min)]≦σsa・・(4)
 ここに、σ'ca:concreteの許容曲げ圧縮応力度[N/mm^2]無筋(普通)concreteと見做すと、(安全率が高く、)σ'ca≦f'ck/4(文献2)
    σsa:鋼材の許容応力度[N/mm^2]
2.2 曲げmomentと最大せん断力に対する設計
 大きさが最大の剪断力を受ける断面での微小直方体要素の力の釣合より、
 τxy=SG/(BIi)・・(4)
 ここに、G:中立軸からの距離(y)以上外縁以下の微小断面積dAに関する断面1次moment∫ydA[mm^3/m]
 p=0.03%で、安全側の観点から無筋concreteと見做すと、中立軸と図心軸が一致し、矩形断面ではIi=Bh^3/12で、図心(y=0)で式(5)に示す最大剪断応力度(τxy max)を取り、
剪断応力度を照査する。
 τxy max=1.5S/(Bh)≦τca・・(5)
 ここに、τca:concreteの許容せん断応力度[N/mm^2]
 剪断力は曲げmomentのRC断面図心の横断方向距離に関する変化のため、最大・最小曲げmomentと最大剪断力発生位置は異なり、crown(頂)部褄部はair抜が不十分だと笹子
tunnelの様に薄くレイタンスが有って弱く主に曲げ破壊するが、覆工が厚い肩部は剪断破壊する恐れは有ります。
 補修・補強法としてはinvertを閉合する、Steel Fiber Reinforced Concreteを適用する等が有り、私はgeneral contractor在職時、経年劣化した大阪市地下鉄でductile
segmentで内側を補強した例が有り、鋼鈑補強を開発しました。
参考文献
1)定塚正行・福田正夫:トンネル、山海堂、2001.5. 2)土木学会:コンクリート標準示方書[構造性能照査編]、pp242-245、2002. 3)岡田清・伊藤和幸・不破昭・平澤征夫:鉄筋コンクリート工学、pp55,56、1997.3.
4)平嶋政治・宮原玄:静定構造の解法、pp168,169、1988.5.