プレストレストコンクリート構造の曲げ耐力

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コンクリート標準示方書2.4.2.1「設計断面耐力」に準拠してプレストレストコンクリート造の曲げ耐力を算定する場合、一般に以下の仮定に基づいて耐力が算出されていると思います。
①維ひずみは中立軸からの距離に比例する。
②コンクリートの引張応力は無視する。
③コンクリートの応力ひずみ曲線は図2.4.1による。
④コンクリートおよび鉄筋の応力ひずみ曲線は図2.4.2による。
⑤軸力はコンクリート断面の図心に作用する。
⑥PC鋼材の終局ひずみに、有効鋼材応力度σpeによる初期ひずみを考慮する。

上記仮定のなかで「⑥有効鋼材応力度σpeによる初期ひずみを考慮する。」とした場合、σpeによるコンクリートの初期ひずみは無視されているのでしょうか。
もしσpeによるコンクリートの初期ひずみは無視されているのであればプレストレスが作用している状態でコンクリート断面に作用している圧縮応力が無視しされていることになると思うのですがそのような仮定は実際の現象と乖離しているような気がするのですがσpeによるコンクリートの初期ひずみの仮定についてご教示いただければ助かります。

コメント

ユーザー 中筋 智之 の写真

 PC鋼材がconcrete断面図心より下に配置される横断面での曲げmoment及び軸方向力に対する使用限界状態検討を以下に記す.
1.prestressed concreteの断面諸元(文献1)
1.1 prestress導入直後grout注入前concrete総断面
A_c:concrete総断面積[mm^2],A_p:PC鋼材総断面積[mm^2],I_c:concrete図心に関する断面2次moment[mm^4],y_o,y_u:concrete図心から断面上(外)・下縁迄の距離[mm],
y_p:concrete図心からPC鋼材迄の距離[mm]
1.2 grout注入後永久荷重作用時concrete換算断面
E_p,E_c:PC鋼材・concreteのYoung(弾性)係数[N/mm^2],n=E_p/E_c:Young(弾性)係数比[1],A_i=A_c+(n-1)A_p:concrete換算断面積[mm^2],
e_e=(n-1)A_p・y_p/A_i:concrete図心から換算断面図心迄の距離[mm],y_oi(=y_o+e_e),y_ui(=y_u-e_e),y_pi(=y_p-e_e):換算断面図心から断面上・下縁・PC鋼材迄の距離[mm],
I_i=I_c+A_c・(e_e)^2+(n-1)A_p・(y_pi)^2:換算断面図心に関する断面2次moment[mm^4]
2.曲げ応力度の照査
 圧縮を正方向とするprestressに拠る静定力をN_p[N]とし,concreteのcreep・収縮に因るPC鋼材引張応力度の減少量(σ_pcs)は(文献2・3),
 ⊿σ_pcs=[n_p・φ(σ'_cpt+σ'_cdp)+E_p・ε'_cs]/[1+n_p(σ'_cpt/σ_pt)(1+φ/2)]
 此処に,φ:concreteのcreep係数[1],ε'_cs:concreteの収縮歪み[1],σ_pt:緊張作業直後のPC鋼材の引張応力度=N_p/A_p[N/mm^2],
  σ'_cpt=N_p/A_c+N_p・(y_p)^2/I_c-M_D・y_p/I_c[N/mm^2]:緊張作業直後のprestress力に拠るPC鋼材位置のconcrete圧縮応力度,
  σ'_cdp=-M_pd・y_pi/I_i[N/mm^2]:永久荷重に拠るPC鋼材位置のconcrete圧縮応力度,M_pd:自重以外の持続荷重に因る曲げmoment[N・mm],
 relaxationに因る緊張材の引張応力度の減少量⊿σ_prは,
 ⊿σ_pr=γ・σ_pt
 此処に,γ:PC鋼材の見掛けrelaxation率[1]
∴σ_pe=σ_pt-⊿σ_pcs-⊿σ_pr
 故に,prestressの有効率(係数)ηは,
 η=σ_pe/σ_pt
 上・下縁concreteの曲げ応力度照査を以下に記し,此れ等4式を満たすN_p・y_pが曲げ耐力である.
①prestress導入直後
 上縁引張側;σ'_co=N_p/A_c-N_p・y_p・y_o/I_c+M_D・y_o/I_c≤0.23f'ck^(2/3)[N/mm^2],
 下縁圧縮側;σ'_cu=N_p/A_c+N_p・y_p・y_u/I_c-M_D・y_u/I_c≤f'ck/1.7[N/mm^2]
②変動荷重に因る曲げmomentM_Ldが作用した時
 上縁圧縮側;σ'_co=ηN_p/A_c-ηN_p・y_p・y_oi/I_i+(M_D+M_pd+M_Ld)・y_oi/I_i≤0.4f'_ck[N/mm^2]
 下縁引張側;σ'_cu=ηN_p/A_c+ηN_p・y_p・y_ui/I_i-(M_D+M_pd+M_Ld)・y_ui/I_i≤k_1・0.23f'ck^(2/3)/γ_c[N/mm^2]
 此処に,γ_c=1.0,k_1=0.6/h^(1/3),h:高さ[m]但し,0.4≤k_1≤1.0
 即ち,有効鋼材応力度σ_peに拠る上・下縁初期圧縮concrete歪は,Hookeの法則に従い,
 ε'_co=σ'_co/E_c
 ε'_cu=σ'_cu/E_c
として考慮される.
参考文献
1)土木学会:コンクリートライブラリー66プレストレストコンクリート工法設計施工指針,2003.5.31
 (私は添字を直し,1 kgf/cm^2=9.80665×10^4 Paが正と出版事業課に送り,上式を記した.)
2)2022年コンクリート標準示方書 設計編,p425
3)岡田清・伊藤和幸・不破昭・平澤征夫:鉄筋コンクリート工学pp.113,163-168,1997.3,鹿島出版会
 (私は訂正案を送り,上式を記した.)