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『コンクリートのあと施工アンカー工法の設計・施工・維持管理指針(案)』の金属拡張アンカーの有効埋込み長さについて

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『コンクリートのあと施工アンカー工法の設計・施工・維持管理指針(案)』(以下、本書とする)の「有効埋込み長さ」の定義について、有効水平投影面積や耐力式の計算結果が過去の設計の実績や参考資料から大きく異なっているように見受けられますので、見直しが必要ではないかと思います。
【参考資料編】には『【標準編】に示されている耐力式は,2005年に作成された,(一社)日本建築あと施工アンカー協会 あと施工アンカー設計指針(案)(以下JCAA指針と略記する)に採用されている耐力評価式をベースとして作成している.』 として、JCAA指針による設計の実績とその基となる実験結果を評価し、その上で耐力式の係数を設定されています。
しかしながらJCAA指針と本書では用語の定義で金属拡張アンカーについて「埋込み長さ」と「有効埋込み長さ」の用語の定義が大きく異なっているようです。
JCAA指針では
 埋込み長さ  :アンカーを母材に埋め込む長さ
 有効埋込み長さ:①金属拡張アンカーでは母材表面から拡張部先端までの距離ただし、耐震補強用アンカーでは、「母材表面から拡張部先端までの長さからアンカー本体の直径を引いた距離」とする。
本書では
 埋込み長さ  :あと施工アンカーを母材に埋め込む長さ.金属拡張アンカーの場合は,母材表面から拡張部先端までの長さのこと.
 有効埋込み長さ:あと施工アンカー部の耐力の算定に用いるあと施工アンカーの埋込長さ.
(【標準編】2.6.1(1)より「金属拡張アンカーの有効埋込み長さℓeは,埋込み長さℓからアンカー本体の直径Daを引いた値とする.ℓe = ℓ - Da」)
となっており、JCAA指針と比較して本書では耐震補強用かそうでないかの区別がなくなっています。

耐震据付用として「M12 SS400 スリーブ打込み式アンカー、埋込み長さℓ=50mm、本体の直径=17.3mm」を母材コンクリート強度=18N/mm²に打ち込んだ場合、本書の耐力式で計算をすると、有効埋込み長さはℓe=50-17.3=32.7mmしかなく、有効水平投影面積AC=π(ℓe×ℓ)=π(32.7×50)=5136mm²となり
 (短期)コーン状破壊耐力=Kt・α・Ac√(fcd)/γb=1.0×0.31×5136×√(18)/1.6=4221N≒4.22kN
と、実験結果から見ても著しく低い値となります。
また、同様に芯棒打込み式アンカーで計算すると本体外径が17.3mmから12mmに細くなるため、逆に有効埋込み長さは38mmに増え、有効水平投影面積AC=π(38×50)=5136mm²に増加します。
 (短期)コーン状破壊耐力=Kt・α・Ac√(fcd)/γb=1.0×0.31×5969×√(18)/1.6=4906N≒4.91kN
結果、母材コンクリートへの拡張部が細い芯棒打込み式アンカーの方が、耐力も大きくなります。これは【参考資料】図1.2(a)の実験結果を見ても整合しているとは言えないのではないでしょうか。
以上より、本書の金属拡張アンカーの有効埋込み長さの定義はアンカーの実績に基づいているとは言えないと思います。

見直し案として、ベースとしたJACC指針と同様に【標準編】2.6.1(1)を
「金属拡張アンカーの有効埋込み長さℓeは,埋込み長さℓの値とする.
 ℓe = ℓ
ただし、耐震補強用アンカーでは、埋込み長さℓからアンカー本体の直径Daを引いた値とする.
 ℓe = ℓ ― Da」
とすれば、これまでの実験結果等と整合性が保てると思います。

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