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(岡崎康生さんのご意見高速道路の無料化は理解できないへのコメントをこちらに投稿します。)

本トピックが,もともと民主党がマニフェスト(政権公約)案に「高速道路無料化」に掲げたという報道を元にしていますので,ややこしい話になっているようです(土木学会でこのテーマを扱うと,蜂の巣をつついたようになることは想像していましたが)。

まず,私は直ちに全国の有料高速道路をタダにしたらよいとは言っていません。私の問題提起は,「償還主義を根拠として高速道路に課金することは,もはや限界ではないか」という点にあります。過去のコメント「一般記事に投稿しておきました」でも述べましたが,これからは課金の目的を,建設費の償還から交通需要マネジメント(TDM)にシフトすべきだと考えます。

その意味で,岡崎さんのコメントの主旨には大筋で賛成です。シンガポールやロンドンのロードプライシング,ドイツのアウトバーンのトラック有料化など,先進国ではTDMやモーダルシフトのための課金が進みつつあります。その背景には,地球環境への関心が高まったこと,日本の新幹線の成功に倣い欧州で自動車から高速鉄道への回帰が進んだこと,そして情報通信技術の進歩により容易に車両単位の課金が可能となったことなどがあります。こうした考え方は世界に広がり,やがて日本にも導入されるでしょう。東京都でもロードプライシングの検討が行われています。私もTDMを目的とした課金自体には賛成です。

参考:TDM〜東京の交通をもっとスムーズに〜(東京都)

ただ,ここで注意すべきことは,前述のシンガポールやイギリスにおいて,高速道路は原則無料,つまり建設費の償還の目的で通行料金を徴収していないという点です。したがって,これらの国々では高速道路であれ一般道路であれ,混雑の回避や環境負荷の軽減のために最適な課金が可能です。

ところが日本の場合には,まずベースに高速道路の償還のための通行料金がありますから,必ずしも,高速道路を含めた最適な交通配分を実現するような,自由な価格設定ができません。例えば,次のようなことが起こります(話を単純化してあります)。

A市の市街地で慢性的な交通渋滞が発生しており,路線バスの遅れが恒常化し,住民のマイカー依存が高まる一方である。A市には市街地を通過する無料の一般道路と,海岸を通過する有料高速道路(料金1,000円)があるが,A市を通過するトラックの多くは高額な高速道路を敬遠し,市街地に流入し環境悪化を招いている。もちろん,環境負荷は高速道路の方が小さい。

ある時,A市では市街地におけるTDMを実現するため,市街地に入る車両にロードプライシングを行うことを検討した。調査の結果,一般道路で800円の課金を行えば通過車両の多くが高速道路を利用し,市街地の混雑が回避されることがわかった。

ところが,このロードプライシング案について,住民から反対意見が相次いだ。「800円では,不可避なマイカー移動の際にあまりにも高すぎる。これでは地域経済が停滞してしまう」と。

別の調査結果によれば,もし高速道路が無料なら,一般道路200円,高速道路300円の課金でも,十分に環境負荷を軽減し,市街地の混雑を軽減できることがわかった。これなら住民は負担できるというが,制度上無理だ。結局,ロードプライシングによるTDMは見送りとなり,代わりに高速道路に並行して無料の一般道路をもう一本建設するため,国の財源の手当てを受けられるよう,陳情に行くことになった。


もちろん,現行制度でも環境ロードプライシングは行われていますが(首都高速阪神高速),限定的です。同様の問題は各地にあるわけですが,一般道路を含めた道路ネットワーク上の交通量の最適化を同じ手法で解決しようとすると,財源の問題で矛盾が生じます。

土木学会誌 Vol.88 に,「阿賀野川ゆとり通勤大作戦」の結果が紹介されています。ご承知の方も多いと思いますが,新潟県の一般国道7号新新バイパス(無料の自動車専用道路)と日本海東北自動車道(有料の高速自動車国道)が並行する区間で,平成14年9月30日(月)〜10月4日(金)の5日間,日東道の通行料金を半額にする社会実験を行ったものです。この実験の結果では,日東道の交通量が倍増し,慢性的な渋滞に悩まされていた新新バイパスの渋滞が大幅に緩和しました。

参考:対談「地域の柔軟な発想が道の未来を変える」
(東京大学大学院の家田仁教授が,「道は使われてこそ,価値が生まれる」として,この社会実験の結果を評価しています。)

このような料金引き下げによる道路の有効活用は,新規道路の建設や拡幅による渋滞緩和という従来の手法に代わり,もっと注目されていくでしょう。財政難の時代にあっては,望ましいことと思われます。また,ETCのような情報通信技術の進歩により,柔軟な課金によって道路ネットワーク全体の利用効率を向上させることは,十分に可能となっていますし,そのための理論的分析も進んでいます。

参考:動的な限界費用に関する理論的分析 解説資料(東京大学生産技術研究所 桑原雅夫教授)

ただ,上記の社会実験には「料金が半額,交通量が2倍で,通行料金の減収はなかった」というハッピーエンドの落ちがありますが,同様の手法を実際に全国に適用した場合には,通行料金の減収が発生する箇所も当然あるでしょう。前述のロードプライシングの例も同様ですが,渋滞の緩和や環境負荷の軽減という外部経済効果を最大化するような価格設定が,必ずしも有料道路事業者の通行料金収入を最大化するとは限りません。その場合には償還主義の原則は成り立たず,税金の投入が必要です。

このことが,私が「償還主義の限界」を指摘する理由です。

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