独立行政法人 土木研究所 坂本 忠彦
1.大保ダムについて
現在、内閣府沖縄総合事務局北部ダム事務所により建設中の大保ダムは、沖縄北西部の治水と水資源開発を目的としたもので、完成すれば福地ダムに次ぐ沖縄で二番目に大きい貯水容量を持つダムになる。
大保ダムは本ダムと脇ダムという大きな二つのダムが建設されるというちょっと珍しい計画となっている。
本ダムは、堤高77.5m・堤体積410,000m3の重力式コンクリートダムで大保川本川を締切るダムである。脇ダムは、このダムによる貯留水が分水嶺の低標高部より流域外に流出することを防止するためのもので、堤高66.0m・堤体積1,750,000m3のロックフィルダムである。
これらのダムにおいても色々な技術開発が行われているが、実は今回紹介するのは、この両ダムの構造物に関して直接実施されているものではなく、付帯する構造物に使用されている技術開発である。なお、当情報交流サイトのシステムでは図や写真が表示できないのが残念であるが、図等の詳細は沖縄総合事務局北部ダム事務所のホームページ(http://www.dc.ogb.go.jp/hokudamu/)を参考にされたい。
2.CSG工法
CSG工法という工法を御存知であろうか。CSGとは、Cemented Sand and Gravelの略で、セメントで固めた砂礫を意味し、ダムなどの構造物を造る材料として最近注目されているものである。
従来、ダムはその材料によりコンクリートダムとフィルダム(大規模なものは、一般的にロックフィルダム)に大別されていた。CSG工法では、コンクリートダムには使えないような低品質の材料に、若干のセメントに水を加えて固化させることにより、堤体材料として活用を図るものである。セメント量は、60〜100kg/m3の超貧配合である。
日本が開発したRCD(Roller Compacted Dam Concrete)工法におけるセメント量(この場合、セメント+フライアッシュの合計である)で、110〜130kg/m3、普通の重力式コンクリートダムの内部コンクリートのセメント量は140〜160kg/m3(最大骨材寸法Gmax 150mmの場合)であるから、セメント量の少なさが理解できると思う。
セメント量が少ないので当然、材料強度が小さくなる。このため、材料強度が小さい場合に適合する堤体形状として台形が提案されている。いわば、材料も形状も重力式コンクリートダムとロックフィルダムの中間なのである。
3.台形CSGダム
台形CSGダムは、堤体材料としてCSGを使用し、表面には耐久性確保や遮水を目的として、上流側には遮水・保護コンクリート、天端および下流側には保護コンクリートを配置する。台形CSGダムは、弾性体として設計するため、堤体内に放流設備や監査廊、堤頂部に非常用洪水吐きなどを設置することが可能となる。
この形式のダムが最初に使用されたのは、国土交通省中部地方整備局長島ダムの仮締切ダムにおいてであり、次いで富山県の久婦須ダムや国土交通省北海道開発局の忠別ダムなどの仮締切ダムで採用されたが、いずれも堤高は15m程度以下の小規模なものであった。現在では、貯水池内の貯砂ダムなどで採用されるに至っているが、まだ本川を締切るダムには採用され建設されている例はない。しかし、沖縄総合事務局の億首ダム(堤高39m)においては台形CSGダムの形式採用が承認され、北海道開発局のサンルダム(堤高50m)、国土交通省九州地方整備局の本明川ダム(堤高64m)での採用が検討されている。
RCD工法に続く、日本発の新ダム建設工法として世界的に注目を集めつつある。
4.CSG工法の特徴
次のようなことが特徴となっている。
(1)CSGダムは、コンクリートほど材料強度を必要としないので、河川砂利、風化岩や掘削廃棄岩を有効利用できる。
(2)基礎地盤の強度や変形性に対して許容範囲が広い。
(3)骨材製造過程を大幅に簡略化できるため、施工時の仮設備が省略できる。
(4)全体掘削量や廃棄岩量が減少するので、環境への負荷が小さくなる。
(5)以上のことより建設コストが削減される。
ダムへの反対運動は根強いものがあるが、その原因について私は、次のようなものがあると思っている。
(a)自然環境の改変への反対(貯水池、道路、原石山、流況変化、水質変化等)
(b)社会環境の改変への反対(水没家屋、農地、地域分断、人口減少等)
(c)治水、利水計画への反対(必要性、効果の判定、代替手法等)
(d)財政的負担(負担の大きさ、費用対効果等)
(e)建設業界、特にゼネコンに対する反感
(f)以上のことを踏まえて、ダム建設の是非に関する民意を直接的に反映させるシステムが無いことに対する不満
CSG工法を用いて築造する台形CSGダムは、以上の原因のうち(a)と(d)の改善に寄与する。
5.大保ダムにおけるCSG工法
大保ダムにおいては次の4ヶ所でCSG工法が使用されている。
表-1 大保ダムにおけるCSG工法ダムの諸元
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名称 堤高(m) 堤体積(m3) セメント量(kg/m3)
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沢処理工 30 33,000 60
汚泥貯留堤 16 5,700 80
上流仮締切堤 14 5,200 80
材料山締切堤 13 3,600 80
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ここで紹介する沢処理工は、小さな沢の低標高部から貯留水が流域外へ流出することを防止するためのダムで永久構造物としての、台形CSGダムの第一号ともいうべきものである。もっとも貯砂ダムでの施工で「こちらが台形CSGダム第一号だ」と主張される方もおられるかもしれないが。
平成15年9月より沢処理工のCSGの打設を開始、外部からの見学者がダムと開く。
堤体表面にプレキャストコンクリートによる堤体表面型枠工が施工されている。次回は、この紹介をしたい。なお、CSG工法については、多くの論文があるが例えば次を参照されたい。
“藤沢侃彦、吉田等、平山大輔、佐々木隆:台形CSGダムの特徴と現在までの検討状況、ダム技術、No191、PP2〜23、2002年8月”
大保ダムを見学して―沖縄の渇水と技術開発の紹介― (2004年3月22日付第1回記事)