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提起された道路の問題を拡張して見解を述べさせていただきます。何故なら、提起された問題に対する直接の返事は問題を矮小化し、或いは感覚的な議論にし、十分根拠のない無責任な発言になりがちになると懸念したためです。私たちの直面する根幹的な問題として広く議論し、やがては土木学会が正式見解を取りまとめ、世に発信すべきであると考え、問題の提起を活用させていただいたことを先ず初めにおことわりいたします。

1.提起された問題は次のような側面を有しているように考えます。

(1) 日本の財政は極端に悪化しています。この状態を子孫に引き継ぐわけにはいかないので改善・改革が必要です。
(2) この悪化の源泉が公共事業にあるとして決め付ける政治的団体の発言と一般市民レベルの意見が大きい社会的潮流を形成しています。このような社会環境での時流に乗った発言はいつの時代でも勢いを持ちやすい傾向があります。
(3) これに対して「道路建設期成同盟」といったような形での政治的反対の声はあるが、第三者的な冷静な立場から論理的に整合性を持った発言は少なく、またあったとしても現在の社会風潮の中では冷静に受け止められない社会状況があるため、発言は極端に少ないように見受けられます。
(4) 即ち必要か否かに関する本質的な議論が十分になされないで、問題が限りなく政治化しており、これは誰かが歯止めをかけなければならない状況に至っており、このため一つの手段として、土木学会の公共事業に関する正論の発信が期待される状況に至っている、とも考える昨今です。
(5) 尚、提起された問題に関する議論は公社公団の民営化云々といった問題までは広げず、議論の発散を防ぐため、「社会基盤の整備・新設問題に関する行くか、行かないか」の妥当性(Feasibility)を如何に考えるべきか、といった問題として絞った議論がなされるべきである、と考えます。
(6) 言い換えるなら、構造改革のような議論に踏み込まなくとも、「行くか、行かないか」の問題は「妥当性」の議論でかなりの程度まで対処できると考えるものです。

2.私は次のように考えます。

(1) 社会基盤の整備・建設においては、利便性、地域の持続的な発展(少なくともその地域の人口が減らない魅力をもつ)、国土全体からみた社会基盤の最適化、環境側面、費用等はトレード・オフの関係にあり、地域全体の設計(グランド・デザイン)があり、徹底的な情報開示があり、国民を含むステークホールダーが、このトレード・オフの関係をしっかりと理解し、選択をする手段を提供することを当然として受け止める時代にいる認識は我々にとって必要と考えます。
(2) 海外で仕事をやる時は、通常その案件の財務、経済、技術、環境(広範囲で居住移転も含む)、住民合意(パブリック・アクセプタンス)といった問題の妥当性の検討、所謂フィージビリティー・スタディーを行い、スタートするかしないかを行う明確なプロセスがあります。わが国でもあるにはあるが、財務・経済、特に財務のフィージビリティーがこれまで若干甘さがあり、環境や住民合意でかなり厳しく検討(最近はいろいろなステークホルダーが参加)しているほどの厳しい検討のプロセスが財務のフィージビリティー・スタディーにおいて取られてきたただろうか、といった若干の反省があるように思えます。
(3) さらには、公共事業には定量化できる便益とできない便益(Intangible benefit―IB)があります。IBに工夫をこらし定量化することにより、説明能力を補填する手法の採用も公共事業の妥当性検討に対し有効であり、より公正で且つ説明責任を補強する判断材料を提供することができます。このためこの分野は今後はさらに磨きをかけなければならない技術分野の一つである、と考えています。
(4) このような幾つかの点が問題提起されたものと広義に理解します。
(5) 日本の現在の財務状況から、これまで以上に財務問題は厳しく問われることは避けられません。そのためにもこの点に関し、さらに明確な個別案件の財務フィージビリティーの検討方法が確立され、その結果と他の検討項目の結果に基づき「行くか、行かないか」が議論できるまでになる必要が最低限あります。
(6) この点に関しては、最近新聞報道のあった第四滑走路を含む羽田空港の再拡張事業はいろいろ問題を抱えながらも、財務設計において、総事業費9,000億円のうち、3、000億円をPFIで調達するとした案などは示唆に富むものと思っています。従来通りでできなくても、工夫をすれば、いろいろな手段があり、必要なものを実現する道は見つかる、という面白い時代が到来しているとも言えます。
(7) 公共事業は本来採算性のない事業を推進し国民の福祉をはかり、地域の活性化をはかり、さらに国力の増進を目指すものであり、ご指摘の如く「採算性の議論ばかり」であっては不健全と言わざるを得ません。
(8) それであるが故に、財務フィージビリティーの検討が公共事業には必要とされない、というわけではありません。
(9) 例えば、東京周辺を数回自動車で走ってみれば分かることだが、明確にいつも詰まるところが指摘でき、そのために、改善されるべき点が結構沢山あることは多くの人の認識するところと思います。地方においても、一日も早く道路が通れば、村は、町は、或いは市が活性化するのだが、といったところもあります。
(10) しかし国の財政状況への配慮はこれらのような公共事業であっても聖域にはなり得ないことは当然です。逆に公共事業であるため、より慎重な配慮を必要とされる時代であるとも言えます。
(11) その為に、直面する閉塞感を緩和し、現状を活性化し、さらに子孫に残すべき社会資本の整備・建設を進めるために、どのような方向で公共事業(この場合は道路)に取り組むべきかを、手法も含め、土木学会は世に発信すべき時期を迎えていると思うものです
(12) 本問題に関する今後の議論が拡大することを意図し、意見を述べさせていただきました。

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